1.アメリカシロヒトリの侵入と分布拡大
アメリカシロヒトリは、敗戦後まもなく米軍の物資とともにわが国に侵入したと推定されている。その後、分布地域を広げ、最近では北海道の函館付近でも発生している。また、当初、1年間に2化であったが、3化する個体群も出現したことが報告されている。侵入後、暫くの間は街路樹や桑畑で多発生し問題となったが、最近は発生が少なくなっている。
2.アメリカシロヒトリの生態と生活史
アメリカシロヒトリの餌となる植物の種類は多く、プラタナス,サクラ,ヤナギ
などの樹木やクワなどの葉を食害し問題となる。アメリカシロヒトリの天敵は、アシナガバチ、スズメバチ、ヤドリバエ、寄生蜂、クモ類やシジュウカラ、スズメ、ムクドリなどの鳥類である。アメリカシロヒトリの老熟幼虫は、幹を伝って、あるいは落下して地面に降り、土中で蛹になる。秋になると第2世代あるいは第3世代の蛹が休眠越冬する。
3.アメリカシロヒトリの発生時期の予測
アメリカシロヒトリの発生時期の予測は、有効積算温度の法則を用いて行うことができる。しかし、アメリカシロヒトリの土中の蛹の体温、幼虫の生息場所の微気象など、温度をどのように評価するか必ずしも簡単ではない。
もしも、アメリカシロヒトリの発生時期の予測ができれば、いつ頃に農薬を散布するか防除適期が明確になり、農薬散布の効果が高まり、結果的に農薬散布回数の減少につながる。
若齢幼虫の作るネット数を調査することによって、その年(時期)の発生が多いかどうかをある程度知ることができる。しかし、アメリカシロヒトリの発生時期のコンピュータによる予測も重要なので、今後、試行的に行っていきたいと考えている。
三重県の北、中、南勢地域でアメリカシロヒトリが多発生している所がありましたら、当研究所までご連絡下さい。発生予測のための基礎データを取らせていただきます。 --> kiikankyo@zc.ztv.ne.jp までご連絡下さい。
4.防除対策
アメリカシロヒトリが多発生し、樹木の葉がひどく食害されたり、あるいは、老熟幼虫が多数地面を徘徊したりして、住民に不快感を与えるような状態になる場合には、適切な防除対策が必要となる。アメリカシロヒトリは、上記のような様々な天敵によって、密度上昇が抑制されている。アメリカシロヒトリが、森林地帯に入って被害を及ぼすことがほとんどないのは、森林内の多様な天敵類によって増殖が抑えられるからであると考えられている。天敵類に悪影響を及ぼすような農薬を使用すると、むしろ、アメリカシロヒトリの多発生を誘導してしまう(リサージェンスを起こす)ことになるので、そのような農薬は使用しないようにしたいものだ。また、ネットを張ってその中にこもっている若齢幼虫や大きくなった幼虫には、農薬が効きにくいようだ。防除適期は、卵から幼虫が孵化する時期である。
少発生の場合には、農薬散布をせずに、若齢幼虫がネット(巣)内にいる間に、ネットごと枝を折って除去することも行われる。
農薬で防除する場合には、人や家畜にほとんど影響がなく、天敵も殺さず、リサージェンスを起こしにくい農薬であるBT水和剤(微生物が産生する殺虫性毒素が有効成分)を使用するとよい。ただし、BT水和剤は紫外線によって不活性化されやすいので、散布するタイミングが合わないと効果が出ないので注意する必要がある。前年に発生が多かった場合には、第一世代幼虫(注)が孵化する時期(通常は6月上旬)に合わせて散布する。第一世代の幼虫の発生が多かった場合には、第二世代幼虫の孵化時期にも散布する。有機溶媒の入った薬剤がメタリック塗装の車に付着すると、しみになって残る場合があるが、BT水和剤などではそのようなことは生じにくく、付着した薬剤は洗えば落ちる。
各世代の幼虫の孵化時期をコンピュータで予測することが必要であるが、これは当研究所のこれからの課題である。紀伊半島地域では、5月に第一世代幼虫が孵化するので、毎日注意して樹木を観察し、アメリカシロヒトリが作る小さなネットを発見したら直ちに散布するようにすれば、防除適期をそれほど逸しないと思われる。毎年、孵化幼虫がいつ頃から現れるか、地域ごとに観察データを蓄積していくことが防除対策上必要だ。
(注)年が明けて初めて卵から孵化する幼虫を第1世代幼虫と言い、これが成虫となって産下した卵から孵化する幼虫を第2世代幼虫と言う。
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